「グローカル・パーティー・かすかべ」レポート(2021年3月27日)

呉宮百合香

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北千住から東武伊勢崎線に揺られて30分。草加、越谷を通り越して、春日部のひとつ手前の「一ノ割」へ。本日のパーティーは、この日光街道沿いの駅からスタートする。パーティーの仕掛け人は、東京のダンスシーンで引っ張りだこの酒井直之と中村駿だ。徒歩10分圏内に実家があるふたりが、地元・春日部で「グローカル・トレーニング」と称したプロジェクトを始めたのは11ヶ月前、新型コロナ第1波ただなかの2020年4月末のこと。SNSで不定期に公開される1分~1分半ほどの映像ダンスは、彼らが生まれ育った町との関係を築き直す一種の「訓練」となっている。

 

春日部でダンスをする場自体を企画するとか、春日部のダンスを作っちゃうとか。

いずれそういうことをしていきたいなと。春日部ダンス活性化。

 

——中村駿(「グローカル・トレーニング・ドキュメンタリー#0529」より)

 

春日部に住んで東京に踊りに行くのではなく、春日部の町でダンスする。コロナ禍を機に、何もかもが密集する東京ではない地域から発信する可能性を探っている。

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「グローカル・パーティー・かすかべ」は、そんな地域活性化プロジェクトの新展開といえる。花曇りの土曜日、これまでは映像で紹介していた春日部に実際に観客を迎え、共に町を歩き、ささやかなお祭りを行うという。

 

集合場所の一ノ割駅を出発し、メガホンを片手に踊る酒井と中村について商店街を通り抜ける。言うなればそれは、友人に地元を案内してもらう感覚に近い。この店は何が美味しい、お祝い事の時はここで出前を頼む、店主の息子は同い年……などなど、この町での生活と地続きにあるふたりの喋りと踊りに、観る側も自然と肩の力が抜けてくる。

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香取神社で太鼓や鐘を打ち鳴らす〈まだこばやし〉と合流し、目にしたものを即興的に言葉で描写する田上碧に導かれながら、さらに住宅街を進む。子どもたちがボール遊びをする原っぱでは、茂みの中をぴょこぴょこと跳ね回る〈odd fish〉を緑のネット越しに目撃。そのまま直進すると、行き当たるは日光街道だ。ひらけた真っ直ぐの道で、酒井・中村の疾走するダンスがスタートする。

グローカル・トレーニングでは、流れゆく風景の中にダンスがある。被写体だけでなくカメラも踊り、追いかけ追い越し、移動し続ける。今日は器械に代わって観客の眼が、対岸の道を駆けるオレンジのトレーナーと白いTシャツをフォローする。視界を遮るように行き交う車までもが「ダンス」の一部となってゆく。

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ツアーの終着地、中村家の庭に到着すると、お辞儀する2人の後ろの店から出てきたおじさんたちが「何やってんのぉ~?」と笑いながら手を振ってくる。パーティー第2部のスタートだ。

2本の松を背景にしたコンクリート舗装のスペースに大小の椅子が置かれ、受付には近所の「幸せのgreen cafe TETOTE」特製のパンや焼き菓子、缶ジュースが並ぶ。私はカボスジュースとそば粉のシフォンケーキを買って、右端の席についた。薄手のコートを1枚羽織るとちょうど良い気候。松の木の奥には背の高い林、その向こうには古利根川が流れている。

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風と共に遠くまで響いていくようなのびやかな歌声で場の空気を創ったのは、アーティスト/ヴォーカリストの田上碧である。聴く者の感覚を開き、周囲の環境に意識を向けさせるような4曲をギターの弾き語りで届けた。林のざわめき、小鳥のさえずり、背後を行き過ぎる車の音までもが田上の音楽の中に溶け込み、ひとつの風景を織りなしており、その響きに身を委ねていると体も心もゆっくりと緩んでいく。観客の間に自然と会話が生まれるような穏やかな時間が流れていた。

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そこにパーランクーを手に、犬小屋、車、家の窓などあちこちから登場したのは、和太鼓+ダンスユニット〈まだこばやし〉の長谷川暢、酒井直之、齊藤礼人、山崎眞結だ。レパートリーのひとつ『それぞなる』に遊びの要素を加え、コミカルかつダイナミックなパフォーマンスを繰り広げた。跳んで転げて、フォーメーションも役割も次々に入れ替わる。音程の異なる4面の太鼓とそれぞれの声が軽快なリズムの連なりを作り出しており、視覚的のみならず聴覚的にも作品展開が感じられるようになっていることも楽しいポイントであろう。庭を端から端まで使って、思いきり場を盛り上げた。

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続く〈odd fish〉はそれまでとは一転。小林萌と渡邊華蓮が、形を変えながら上演を重ねる『machi』をベースにしたデュオを踊った。レトロなタンゴやサウンドコラージュにのせて展開される横並びのユニゾンを基調としたダンスは、息がぴったり合っていて緻密、なかでもスピーディで細かい手の振付が際立っている。劇場空間向けに作られた作品であり、注意が散漫としがちな屋外で演じるには困難な面もあっただろうが、強固な世界観は客席にも集中力を生んだ。

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そしてフィナーレでは、この日に向けて酒井直之、中村駿、長谷川暢が作詞、長谷川暢が作曲した「おかえりかすかべ音頭」がお披露目された。はじめにサビ部分の振付レクチャーがあり、出演者だけでなく観客も皆踊ってパーティーを締めくくる。両手を大きく左右に振って、覗いて、指して……

 

どこにでもあるような ここにしかない町

 すぐに会える気がして やっぱりすぐ会える

 どこにでもあるから どこにでもある

 あなたの中にある町

 あなたの側にいる町

——「おかえりかすかべ音頭」より

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町を舞台にした数あるパフォーマンスのなかでも、「グローカル・パーティー・かすかべ」の特徴は、仲間同士で集まって休日を一緒に過ごすようなゆるやかさにあるように思う。フィナーレを前に、酒井と中村がその場にいる自らの家族を気取らずに紹介していた姿は特に印象的だった。仕事をしている時の顔と、地元で親戚や古い知人に囲まれている時の顔、その両面を軽やかに接続しているような気がしたのだ。

きたがわゆうが描いた本イベントのメインビジュアルのように、ご近所さん、近しい友人、仕事仲間に純粋な観客、そして犬(!)までもが入り混じった空間。ひとりで参加しても、場違いであるかのような居心地の悪さは全くない。そこには何かしらの接点がある人がゆるやかに集い、ひとときを共にして帰っていく、パーティーならではの心地よい距離感があった。どの席が見やすいかなんて話していた隣席の方が中村家のおじいさまだったことは、後で知ったのだった。

これまでふたりともコンテンポラリーダンスで主に東京でやっててさ、同世代で。やっぱそこにいると、どうしてもライバル意識みたいなのがあるじゃん。

なんかこんなに気軽に、一緒に作ろうぜ撮ろうぜ踊ろうぜとはあまり言えないというか。

 

——酒井直之(LAND FES PLUS「Glocal Training vol.1 酒井直之×中村駿」より)

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帰り道、今日のお土産になるようなものがふとほしくなり、商店街の和菓子屋さんに立ち寄った。劇場に日々通っていると、会場に行くまでの道のりも体験の一部だということをついつい忘れてしまう。春日部は、プチ旅気分と共に「どこかに行って誰かに会って何かを見る」という楽しみを思い出させてくれた。そんな半日を、家に帰ってからももう少しだけ味わっていたかったのかもしれない。

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ちなみに、お土産にした春日部名物黒豆茶と春日部黒糖焼(ちぐさ)、そしてそば粉100%のシフォンケーキ(TETOTE)は絶品でした。ご来訪の際にはぜひ。

文章: 呉宮百合香

写真:  富澤大輔